STUDENT INTERVIEW
塾生インタビュー
実現したい世界を語ることはできても、実現する手段を持っていない僕に、起業という新しい選択肢をくれた場所がMAKERSです。
中村 恒星さん
北海道大学医学部医学科3年 / 株式会社SpinLife 代表取締役CEO
MAKERS UNIVERSITY 4期生
- Q.
- MAKERS UNIVERSITYに応募する前はどんな想いで、どのようなことに取り組んでいましたか?
とにかく「治療法の無い疾患を患っている患者さんを救いたい」そんな想いを持っていました。
しかし、まだ医師ではない医学生の立場でできることはかなり限られていました。ただ何かしたいという想いは強かったので北海道大学病院の医師に連絡をとり、表皮水疱症という皮膚難病の患者会を紹介していただき、患者会の運営などに関わらせていただくことになりました。
ホームページの作成や総会などに参加させていただく中で日本の患者会の課題や患者さんの生活などを知ることができました。ここで得た経験が今の事業に繋がっています。病院の中の患者さんではなく、病院の外の患者さんとじっくり交流できたことは医師ではなく医学生であるからこそできたことであり、機会を作ってくださったみなさんには感謝しています。
- Q.
- 現在はどんな事業やプロジェクトに取り組んでますか?その事業やプロジェクトに挑む背景や想いも含めて教えて下さい。
摂食嚥下障害を有した患者さんや高齢者のためのチョコレートを開発しています。
表皮水疱症という皮膚難病の患者さんと接する中で、口の中の皮膚が脆弱なため固いものを食べることができない、食道が狭窄するため嚥下が困難であるなどの問題を抱えているため、食事のハードルが非常に高いことがわかりました。結果、栄養不足や体調不良により、進学や就職などのライフイベントが制限されています。
この現状を打破するために、患者さんでも食べることにできるテクスチャーで、できる限り少量で人間に必要な全栄養が摂取できるチョコレートの開発をしました。嚥下障害は高齢者にも多発しており、2020年には75歳以上の高齢者は2000万人を超えるという統計データが出ています。
また、2018年度の医療費が42.8兆円と過去最高を記録し、高齢化が進む日本において健康寿命の延伸を食の面からサポートしていきたいと思っています。
- Q.
- MAKERS UNIVERSITYにはどんな想いや期待感で応募しましたか?
MAKERSに応募したときは、俗にいう意識高い系な大学生を抜け出したいという思いが強かったです。実現したい世界を語ることはできるけど、実現するための手段を持っていない自分に嫌気がさしていました。何か始めなければいけない。そんな想いに駆られている時にたまたまMAKERSの3期のDEMODAYのイベントページ(https://makers-u.jp/demoday2019)が流れてきました。
さらに普段は札幌にいるのですが、DEMODAY当日はたまたま別の用事で東京にいることが決まっており、オーディエンスとしてDEMODAYに参加することができました。僕とMAKERSの出会いは、2つの偶然が重なったことで起きました。DEMODAYで3期生のみなさんが自分の実現したい世界を磨き上げた手段とともに楽しみながら伝えている姿を見て、僕もMAKERSに参加することで変わることができるかもしれない、そう思い応募することを決めました。
- Q.
- 実際にMAKERSに参加してみて、自身にとってどんな変容や進化がありましたか?
手を動かすことで見えてくる世界があることを知りました。
それは東大医学部で同じMAKERS4期生の川本亮に教えてもらいました。彼は、同じ医学生で同じ学年。大学の生活からはみ出して活動していることも同じ。そんな彼に言われたことを今でも覚えています。「新しいことをやろうと思ったらバカになって夜な夜な手を動かしつづける。そうしているうちに共感してくれる人が現れる。大事なのはバカになること。」 一人暮らしの部屋で夜な夜なハエの幼虫を観察し続けた彼の言葉には強い説得力がありました。札幌に帰った僕は、すぐに材料を買い込んで夜な夜なプロトタイプを作り始めました。あの言葉が僕を突き動かしてくれました。川本くんには感謝しています。
また、他者に共感することの価値を学びました。MAKERSはただのビジネスプログラムではない。生き方や在り方を問うてくれる場所です。だからこそ、多様な価値観を持った人が集まってきます。正直、僕には理解不能な人もいます(笑)。逆に「遺伝子の解析楽しい〜」とか言ってる僕のことが理解不能な人もいるでしょう(笑)。自分と違う軸で生きている人と深く対話することで自分を客観的に見つめることができるようになりました。
- Q.
- 成田ゼミが自分自身や事業に与えた影響、メンターである成田さんとのやりとりで印象に残っていること、また、月1ゼミでの学びや気づきを教えて下さい。
『ユーザーの声を丁寧に聞くこと。』この大切さを教わりました。
僕の事業の場合、摂食嚥下障害を有している患者さんのためという、社会全体からするとかなりニッチなユーザーを対象にした事業です。僕自身が嚥下障害を有している訳ではないので、真に患者さんの苦しみを理解できる訳ではありません。また、真に患者さんの声を汲み取らないと全く的外れなプロダクトになってしまいます。「ユーザーの声を聞かないとただ作っただけで終わってしまう。」、そう成田さんがおっしゃったのはとても心に残っています。
また月1のゼミは、札幌で活動する僕にとっては、ペースメーカーのような役割を担ってくれています。いつまでに何をやる、次のゼミではここまで報告する、など明確な目標を持って1ヶ月を過ごすことで中身のある日々を送ることができました。さらに、Slackでゼミメンバー同士の進捗報告や交流があることが、自分以外のみんなも頑張っていることの可視化に繋がり、自分を奮い立たせてくれました。
- Q.
- MAKERSUNIVERSITYに入学してから、一番印象に残っている出来事は何ですか?
2月の事前カリキュラムの合宿で各メンターの方々が「一生を懸けてもいい事業を選ぶことが大事」とおっしゃるのを聞いているうちに、自分との考え方の差に戸惑うようになりました。
僕は将来、医師になります。研究者にもなります。正直、事業に一生を賭けることなんてできない。他にも医療者としてやりたいことが山ほどある。そんな考えの中で事業に取り組んでうまくいくのだろうか。ビジネス界では、百戦錬磨のメンターたちの言葉に押しつぶされそうになりました。
そんなときに救ってくれたのは、たくさんの友達でした。特にMAKERSの4期生のみんなは、各々の価値観や経験から僕にたくさんのアドバイスをくれました。LINEやMessengerでコメントをくれた友達、夜遅くまで膝を突き合わせて話をしてくれた4期生のみんなの存在を改めて認識した、2月のあの夜は今も鮮明に覚えています。
- Q.
- MAKERSに入ったからこそ得られたことや、MAKERSがあってよかったなと感じていることを教えてください。
馴れ合いとは違う、刺激し合える仲間ができること。これに尽きます。
僕は普段札幌に住んでいます。東京で「起業しよう」と思った場合に比べて、わくわくや不安や悩みを共有できる仲間は少ないのが現状です。起業に伴う心の変化を共有できる仲間関係をMAKERSで構築できたのは僕の一生の財産になると確信しています。実際に起業する中で気づいたのですが、世の中に無い新しいイノベーションを起こそうとするときに一番大事なことは、人とのご縁です。理解されないことも多いですし、自分でできることも限られています。その時に仲間との縁があれば困難なことも乗り越えられる。そんな感覚を日々感じています。そして、10年20年たったときにMAKERSのエコシステムの中でどんな化学反応が起きているのか非常に楽しみです。
そして、僕が医療や科学のメンターとして次の世代の挑戦者を支えていけたら最高かなって真面目に思っています。その時は事務局の皆さん、声かけてくださいね(笑)
- Q.
- 学生向けの起業支援プログラムやビジネススクールが沢山ある中で、MAKERS UNIVERSITYがそれらと違うのはどこだと感じますか?
自分の原点から出発するところだと思います。
僕は、MAKERS以外の起業プログラムに参加したことがないので他との比較は正確にはできませんが、プログラムの参加者に対し、個人という角度からアプローチするのか、事業という角度からアプローチするのかという大きな違いがあると感じます。MAKERSは、前者で、事業の成功を目的としていない。参加者が自己を内省し、どのような生き方をしていくのかの解を出すことに意義を置いている。この部分が他のプログラムとの違いであり、素敵なところだと思います。
ただ、自由度が高い分、個々に求められるものも高くなります。また、MAKERSに応募しても選ばれなかった方がいることを理解した上で全力で取り組むことが大事なことじゃないかなと個人的には思っています。
- Q.
- あなたとってMAKERS UNIVERSITYを一言で表すと何ですか?
「始まりの場所」
僕の人生に新しい選択肢をくれた場所です。医師として生きていく。研究者として生きていく。この2つは、MAKERS期間前からクリアに見えていました。しかし、医師や研究者としてでは解決できない世の中の課題もたくさんある。その事実に直面したときに、MAKERSがその課題を解決する手段として起業という選択肢をクリアにしてくれました。
ここから、そのクリアになりつつある道をどう歩んでいくのか。医師として研究者として起業家として、どう生きていくのか。もちろん全部中途半端になってしまうのではないかという不安も常にあります。でも、せっかく生まれてきた一度きりの人生。目の前のおもしろいと思った選択肢を選んでいこうと思います。そう思える自分を形作ってくれた「始まりの場所」。それが僕にとってのMAKERSです。
- Q.
- あなたの人生や事業を通じて「こんな世の中・こんな未来を実現したい!」というビジョンを教えてください。
疾患の本質を解明することと本当の意味での人の健康を追求すること。これを僕の人生を通して表現したいです。
以前、教授が僕たち学生にこんなことを言いました。「人の死を医療の敗北と仮定したとき、人は必ず死ぬということは医療は必ず敗北することと同義である。必ず負けるとわかっている戦いになぜ君たちは一生を懸けるのか。その意味をよく問うた上で医療者になってほしい。」と。この問いに対する明確な解は僕にはまだ見つけることができていません。ただ、目の前の患者さんと接していく中で、疾患の本質に迫る中で見えてくるヒントを大事にして生きていきたいと思います。この問いに対する解が見つかり始めた時に僕が何を思い、どんな行動をとっているのか、自分自身非常に楽しみでもあります。
(*このインタビュー記事は、2019年9月時点のものです)
関連URL
・薬学生から医学生、その先へ(個人ブログ)
・医学生チャンネル
その後の活躍
・現役医学部生がなぜ起業!?〜完全食チョコレートで起業した背景に迫る〜
PROFILE
中村 恒星 北海道大学医学部医学科3年 / 株式会社SpinLife 代表取締役CEO
1995年生まれの24歳。岐阜市出身。富山大学薬学部創薬科学科卒。北海道大学医学部医学科第2年次学士編入学。現在3年生。自身がファロー四徴症という先天性心疾患を患っているため医療を身近に感じながら育つ。甲子園を目指し野球に打ち込む高校生活を終え、創薬研究者を目指して薬学部に入学する。薬学部在学中にミャンマーの医療や島根県隠岐の島の離島医療を見学する。その経験から医療の課題の多さを実感し、より現場を深く知るために医学部への編入学を志す。薬学部では有機合成化学の研究を行う。現在は医学部の病理学教室にて脳腫瘍の研究を行っている。医療と生命科学研究と起業の3領域、それぞれの厳しさに揉まれながら奮闘中。